外国人にとって、便利に利用できる公共交通機関が非常に少ない、インドネシア共和国の首都ジャカルタ。従って、市内の移動に当たっては多くの場合、タクシー利用になります。Uberの登場で少し事情は変わってきましたが、台数が多く料金も手頃なタクシーは、今後も市内移動の第一選択肢であり続けることでしょう。
今回は、そんなジャカルタ都市圏における、安心安全なタクシーの選び方についてまとめました。
ジャカルタのタクシーって危なくないの?
結論からいうと、安全だと思います。ジャカルタを初めて訪問する方にとっては意外な事実かもしれませんが、ジャカルタのタクシーのレベルは東南アジア随一(シンガポールは別格なので除外)です。
ジャカルタのタクシーには通算1,000回以上は乗車していますが、この経験を通じて言える事は:
・95%程度の運転手は、こちらから言わなくともメーターを倒す
・メーター運賃はリーズナブル
・運用されている車の殆どが、経年5年以内の日本車。エアコンも効く
・通常のタクシーの2倍弱の料金で乗車できるプレミアムタクシーが存在する
・意図的に遠回りするような事はあまりない
・運転手が強盗に化けることはまずない
ということ。
東南アジア他都市だと、バンコク、クアラルンプール、マニラ、ホーチミン、ヤンゴン等でも、タクシーをまとまった回数利用したことがあります。その経験を踏まえると、これらの都市において、上記の条件がコンスタントに満たされているようには思えません。
例えば一見文明的な印象のクアラルンプールでも、一般タクシーはおんぼろの国産車「プロトン」で、外国人と見るや、なかなかメーターで走ってはくれません。英語で交渉しても相場より高い金額でしか纏まらないケースが多い印象です。マニラでは英語は通じますが、車体がボロくて車内も汚く、不安を感じます。
そんな中、ジャカルタのタクシーは外国人にとっても、総じて安心して利用できる乗り物だといえますが、一部悪質なタクシーが存在するのもまた事実。悪質といっても(日本人にとっては)小銭を巻き上げられるようなレベルのトラブルが殆どですが、気持ちよく移動するためには、乗車するタクシーのブランドを選ぶことが重要です。ここでは外国人でも問題なく利用できるタクシー会社をご紹介します。
最も安心して利用できるタクシー会社
ブルーバード タクシー Blue Bird Taksi 初乗り(Rp.6,500)
言わずと知れた最大手、ブルーバードタクシー。青い車体と鳥のマークの行灯が目印です。ブランドとしては”Blue Bird”と”Pusaka”の2種類がありますが、違いはありません。大人の事情で分社化されているだけで、中身は全く同じです。Pusaka は一見すると、後述する「偽物ブルーバード」であるようにも思えますが、判別のポイントはフロントガラスのステッカー。白抜きで Blue Bird Group と貼り付けてありますので、近づいてくればすぐに分かります。
車両のメンテナンスは行き届いており、100%メーターを倒して走ります。前面に空車を表すLEDは付いていませんが、空車の場合屋根の上の行灯が点灯しています。逆に、行灯が消灯しているときは既に客を乗せていますので、止まってくれません。
乗車拒否も、車庫に戻る車の増える夕方を除くと基本的にはありません。外国人にとって、最も安心して利用できるタクシーです。
しかしながら、ここ最近は以前より運転手の接遇レベルが下がっているように感じます。また、車庫が広域に散らばっていることもあり、「自分のシマ」の外を走っている車を拾うと、どうも地理に不案内な事があったりもします。ブルーバードといえども、オールマイティではありませんので、運転手の知識や能力が足りない部分は、乗客がフォローしなければなりません。英語を理解しない運転手もいるので、簡単なインドネシア語を使えると非常にスムーズ。タクシーをコントロールするための簡単なインドネシア語表現は下記の記事にまとめてありますので、併せてご覧下さい。
無事に迅速に目的地に到着するためには、シンプルなインドネシア語とGoogle Mapを駆使する必要があります。ここでは、…
なお、ここ最近は電話・スマホアプリ予約のミニマムオーダーがなくなりました(以前は確かRp.40,000~)。恐らくUberやGrabTaxiへの対抗策なのだと推測されますが、これらの競合よりも台数の多いBlueBirdは、圧倒的に早く来ます。空車が見当たらないときは、ホテルのスタッフやインドネシア語を解す現地従業員に電話で予約してもらうのが一番です。
シルバーバード タクシー Silver Bird Taksi 初乗り(Rp.15,000)
ブルーバードのプレミアムバージョンが、シルバーバードタクシーです。
フリートの中で、ジャカルタ市内で最もよく見かけるのがMercedes-Benz C230。タクシータイプなので随所が廉価版になってはいますが、ブルーバードのToyota Vios (Limo)の乗り心地とは雲泥の差です。あまり路面状況の良くない所でも、ドイツ車らしいどっしりとした走りで切り抜けていきます。他にはカムリやアルファードも投入されており、電話予約の場合は車種の指定も可能です。
スカルノハッタ空港から都心まで乗車した場合の料金は、およそRp.350,000。日本円にして3,000円弱です。クアラルンプールのプレミアムタクシーが、Toyota Kijang Innovaであることを考えると、ブルーバードの2倍弱でこういった車に乗れるのはお値打ちだと言えましょう。
なお、シルバーバードタクシーは運転手も選りすぐり。ブルーバードで数年経験を積んだ後、接遇が良く、多少の英語を理解する人が選抜されていると運転手が言っていました。高価な車故、ぶつけると後が怖いのでしょう。特に渋滞中は運転も慎重です。
最も安心して乗れ、料金も(先進国と比較すると)値頃ですので、外国人にとっては利用価値が大でしょう。問題は台数があまり多くないこと。基本的に流しでは捉まらないので、高級ホテルやショッピングから乗車するか、電話で配車予約をする必要があります。
ショッピングモールによっては、後述するExpressグループのTiara、White Hourse Premiumといった高級タクシーが止まっていることもあります。料金・サービスレベルともにシルバーバードとほぼ横並びですので、こちらを利用するのも良いでしょう。
それなりに安心して利用できるタクシー会社
エクスプレスタクシー Express Taxi 初乗り (Rp.7,500)
ブルーバードの次によく見かける、白い車体に黄色い行灯のタクシーがエクスプレスタクシーです。
フリートは殆どがToyota Vios。ブルーバードと比較して、若干古ぼけた車体が多いですが、極端に汚れていたり、臭かったりということはないので、まぁ及第点と言えましょう。Expressは2015年ぐらいからか、姉妹ブランドのEagleを立ち上げています。ブランドのポジショニングの違いが今ひとつよく分からないのですが、Eagleの方が新しい車が多い印象です。
空車の時はフロントガラスのLEDに “VACANT” と表示されています。一方、実車走行中は “Hired” 表示です。どちらも赤色文字なので、近づいてこないと手を挙げて良いものか、よく分かりません。
よっぽどの事がない限りメーターを倒して走りますが、稀にボンヤリして倒し忘れる輩がいますので、発車後倒す気配がなければ普通に指摘しましょう。指摘しても倒さないほど「根性の悪い」運転手は、このレベルのタクシーにはほぼ存在しないと思います。
エクスプレスの特徴は、その名の通り飛ばしやな運転手が多い事。道路が空いていると、ガンガン攻めの走りを展開します。早朝、都心からスカルノハッタ空港まで20分台前半で走破されたときは、さすがに手に汗握りました。後部座席のシートベルトが付いていなかったりすることもあるので、安全性重視の方はやめておいた方がよいかもしれません。
ガムヤタクシー Gamya Taksi (初乗り Rp.7,500) タクシー・クー Taksi Ku (初乗り Rp.7,500)
Gamyaは元々くすんだ緑色の日産マーチがメインでしたが、近年急速に銀色のToyota Avanzaへの置き換えが進んでいます。ジャカルタのタクシーでは珍しいミニバンタイプのタクシーですので、荷物が多いときは重宝するかもです。
Taksi Kuは日本語に訳すと「俺のタクシー」という意味合いのブランド。なんともやんちゃな雰囲気が漂いますが、まともなタクシーです。フリート構成は個性的で、シボレーの小型車が殆ど。シボレーがインドネシア現地生産を停止してからは韓国の起亜自動車の車を入れています。空車の場合は行灯に仕込まれたLEDが緑色に、実車走行中は赤色で点灯します。遠方からよく識別できるので、ここは優等生です。
アパートメントによっては、タクシープールにいるのが上記いずれかの一種類だけ、ということがしばしばあります。恐らく管理会社と何らかの契約があるのでしょうが、「ブルーバードが居ない!」と慌てる必要はありません。
トランス・キャブ Trans Cab (初乗り Rp.7,500)
トランスキャブはオレンジ色の車体が特徴で、主に中央ジャカルタ北部と北ジャカルタを根城にしているタクシー会社です。コタ地区のクラブやホテルの前には、こいつがずらりと横付けされていることがあります。ブルーバードがいない!と一瞬焦りますが、お上りさん丸出しでない限り、ちゃんと走ってくれるタクシー会社なので、過度に恐れる必要はないでしょう。
トランスキャブのフリートはひたすら韓国車。古い現代・起亜を新しい起亜で置き換えているあたり、満足度が高いのでしょう。日本車が圧倒的なシェアを有するインドネシアでこのフリート構成、というのは極めてユニークです。妙なこだわりは、車内インテリアにも反映されています。後部座席には小型のシートテレビを装備。インドネシアの地上波が見られて渋滞時も退屈しない!という趣向なのでしょうが、早々に故障してトマソン化しました。このあたりはインドネシアのお約束です。また、シートモケットもこの国のタクシーでは珍しい布張り。シートのフィット感も良好なので、居住性はブルーバードのToyota Viosよりも良好であるように思います。
運転手は、基本的にはメーターを倒しますが、大雨の時や早朝など、需給関係が供給者サイドにとって圧倒的に有利になってくると、色気を出してきます。そのような場合は、とりあえずメーターを倒させ、「メーターの額のダブルで払うぜ!」と言うのが良いと思います。この方がヘタに交渉するよりも安上がりです。
少々やんちゃな所もありますが、話し好きの良いおっちゃんが多い印象。コタ界隈〜西ジャカルタにかけての裏道にも詳しいので、時折「おっ!こんなルートもあったのか!」と膝ポン状態になることもあります。片言のインドネシア語が話せる方には、面白い乗り物かもしれません。
オススメできないタクシー会社
スパカットタクシー Sepakat Taxi/ プトラタクシー Putra Taxi/ インドタクシー Indo Taxi
これらは偽物ブルーバードタクシーです。一見似ているのですが、車体の色あいや行灯が異なります。偽物すなわちボッタクリという訳ではありませんが、会社のスタンスがこの調子ですので…外国人と見るやカモにしてくる確率は飛躍的に高まります。
先日昼間に乗車したSepakat Taxiは、乗り込むと大音響でローカルのクラブミュージックがかかっており、運転手もちょっとラリった感じ。「このミュージック、イケイケでいいだろぅ〜〜」とか言われましたが、面倒くさかったので適当に話を合わせつつそのまま走らせました。到着時、通常より疲労していたのは言うまでもありません。
車両のメンテナンスも良くなく、車内にゴミが多数落ちていたりするので、よっぽどの理由がない限り、もっとまともなタクシーを選ぶべきでしょう。
ディー・タクシー D Taxi/ メガ・タクシー Mega・Taxi
このあたりも、見た目からして怪しいですね。ただ、有象無象の個人タクシーに比べると、多少はマシかもしれません。バスターミナルや鉄道駅で、「まともなタクシーがどこを探しても居ない!!」という時に、選ぶ…かな。というところです。積極的に乗ることは皆無ですね。
ジャカルタのタクシーでの犯罪
現地での報道を見る限り、法人タクシーの運転手から大金を要求されるというような事件はないようです。ただ、昨年一時期話題になっていたのは、夕方にオフィス街に出没する「強盗タクシー」。記憶を頼りに書いているので詳細は異なるかも知れませんが、だいたい以下のような手口でした。
タクシーの需給が逼迫する通勤時間帯に狙いを定め、稼ぎの良いホワイトカラーの多いオフィス街をボロボロのタクシーで流します。ターゲットは一人乗車のOL。なかなかタクシーが捉まらず、やむにやまれず乗り込んでくるのを待ちます。
うまいことターゲットを乗車させることに成功したら、しばらくは普通に運行。人気の少ない住宅街に入った所で、トランクに潜んでいた相方の強盗が後部座席に出現!刃物をつきつけ、ATMで大金を引き出させる…
という事件でした。私は当時都心のSenayan地区で勤務していましたが、確かに夕方になるとボロボロの旧型セドリックが、行灯を怪しく輝かせながらユラユラと流していました。
上記のような手口の犯罪を企てるものにとって、外国人は一層のカモ。くれぐれもこういうタクシーには乗車しないようにしましょう。きっちりとした法人タクシーに乗っている限り、ジャカルタ市内移動のよき相棒になってくれるはずです。
以上、「ジャカルタでの安全なタクシーの選び方」に関するまとめ記事でした。