昨年2015年12月に運航開始した “Rayani Air” という航空会社をご記憶の方はあまり多くないかもしれません。マレーシア政府当局は、2016年6月13日付けでこの新興航空会社の運航許可の取消を発表しました。これだけみると典型的な「東南アジアあるある」なのですが、Rayani Air はその設立コンセプトからして非常にユニークな航空会社。この点において特筆すべきニュースであると思います。
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Rayani Airについて
Rayani Airは2機の中古B737-400型機を運航する、マレーシアのランカウイを拠点とする新興航空会社。典型的なスタートアップ航空会社と異なるのは、エアラインオペレーションにおける全ての局面がイスラム教のシャリーア法に基づいていることです。
機内サービスにおけるアルコール類の提供は勿論御法度ですし、女性の客室乗務員は全員ヒジャブを着用。ファイナンスに関してもシャリーアに準拠した方法で行うという本格派です。
よく知られている所でいうと、イラン航空がまさにこのような形でオペレーションを行っています。しかし、マレーシアではイスラム教が国教とされているものの、ムスリム人口が全体の6割に過ぎず、国体そのものも中東の各国と比較して、かなり世俗的です。
そんなマレーシアにおいてこのような航空会社が立ち上がったということで、当時のニュースをみて新鮮な驚きを感じたことを、よく記憶しています。
設立のコンセプト
また、仰天なのが同社の設立コンセプト。同社の設立者であるRavi Alagendrran氏によれば、マレーシアの保守的なムスリムの間では
・フラッグキャリアのマレーシア航空はイスラム的な価値観にコミットしていない航空会社だと考えられている
・2014年に続発した悲劇的な事故は、いずれも同社が神の怒りに触れたことの天罰だ
との見解が多いとのこと。そのロジックでいえば、世界中から非ムスリム美女を集めて豪奢な酒をサーブしまくっているエミレーツ、カタール、エティハドあたりは墜落しまくりのはずですが、彼らのロジック破綻はいつものこと。
同氏はそこに商機を見いだし、「シャリーアへのコンプライアンスをカンペキにした、安全な航空会社」としてRayani Airを立ち上げたのだそうです。
ちなみに、Ravi Alagendrran氏本人はヒンズー教徒のインド系マレーシア人なんだとか。異教徒のセンシティブな領域にカチ込んでいきつつ、ビジネスを立ち上げるインド人の気迫と根性には脱帽です…
そして、極めつけなのが、2機のB737-400型機の出自。なんと2機とも元マレーシア航空の機材です。売る方も売る方ですが、買う方も買う方でしょう。デリバリーから20年以上も「ノン・ハラール」なサービスを繰り広げてきた機材を買ってくるあたり、どの程度本気だったのか疑いたくなってくるレベルです笑
前のめりな創業コンセプトとは裏腹に、案の定、神様もお気に召さなかったようで…
運航開始から約半年で運航休止へ
2016/6/14付けのtelegraph.co.uk記事によると、マレーシア当局は”Rayani Air”の運航許可の取消を決定したとのこと。安全管理体制に関する査察で及第点を得られず、4月11日から三ヶ月間の運航休止を申し渡されていた上、財務状況や経営体制の不安定さも問題となったようです。
マレーシアクラスの国で、中古のB737-400をオペレーションしていること自体、そもそも怪しさ満点だったわけですが、度重なる遅延・運休や賃金の未払いを理由とした乗務員のストライキ等の理由から、思いの外早く終焉を迎えてしまいました。
実際に乗ってみようという気持ちには全くなれないエアラインですが、雨後の竹の子のごとく新興航空会社が乱立する東南アジアにおいて、斬新な切り口の航空会社であったこともまた事実。
もう少し頑張ってもらいたかったものの、このCEOはめげずにまた新しく起業するような気がします。第二のトニー・フェルナンデスになれるのでしょうか笑