キャセイパシフィック航空には、面白い経歴をもった機体が何機か在籍しています。前回の記事で取り上げたB747-400 B-HKT号もそのうちの1機でしたが、さらに際物感漂うのがB777-200フリートの5号機であるB-HNL号。
(画像出所:Airliners.net)
キャセイのB777-200はそもそも非常に地味な存在ですが、このB-HNL号だけは異色です。好きな人にはたまらない異端児飛行機をご紹介します。
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・B-HNL号は B777-200 の製造第一号機!
(出典:Planespotters.net Database)
上記の画像は合計5機が在籍する、キャセイパシフィック航空 B777-200のフリートリストです。B-HNA〜HNDまでは順序よく登録記号が並んでいる中、いきなりHNDの次はHNLまで飛んでいます。最初の四機が1996年に一気に導入されている中、B-HNL号だけは4年後の2000年の導入。この為、登録記号が飛び飛びになってしまっているのです。
これを紐解く鍵は、”l/n” の欄にあります。これはLine Numberの略で、同一モデル中での製造番号を表します。B-HNL号は1ですので、栄えあるB777の製造初号機である事がわかります。洋の東西を問わず大人気である「トリプルセブン」の初号機は思いの外身近な所で飛んでいました。
B-HNL号初飛行の様子
製造初号機であるB-HNL号は、当然の事ながらB777の初飛行を達成した機体でもあります。Youtubeに初飛行時のドキュメント動画が上がっていました。
しかしこうやって色々な動画が簡単に閲覧できるのは、本当にありがたいことですねー
初飛行後はハードなテスト飛行も完遂
新型の旅客機が世に出る為には、様々なテストをクリアしなければなりません。初号機&デモ塗装機である現B-HNL号も、「机上の空論」を実践に置き換える為、ハードなテスト飛行を繰り返していたようです。
いやはや、通常運航中には考えられないような、ハードなオペレーションの数々ですね。危険を顧みないこういったテストの数々によって、日々の安全運行が担保されている訳です。パイロット始め、試験飛行に関与されているスタッフの方には頭が下がります。
テスト終了後はニート化
ひととおりのテストを完了し、B777は無事に型式証明を取得。1995年5月に製造7号機がユナイテッド航空に引き渡され、営業運行も開始されました。初期ロットの機体がユナイテッド、ブリティッシュエアウェイズ、ANAに引き渡される中、初号機であるN7771号のみはボーイング社に籍を置き続きます。
その間、随時テスト飛行等も行っていたのかもしれませんが、データだけを見ると、就職せずに実家に居座り続けるニートそのもの。こたつでミカン食いつつゴロゴロしながら「働いたら負けだと思ってる」とかネットに書き込んでいるイメージです。
そんなニート飛行機をキャセイパシフィック航空がお買い上げ
自宅警備員の道を貫いていくかと思いきや、西暦2000年、N7771号にも転機が訪れます。香港のケチ「お買い物上手」こと、キャセイパシフィック航空に購入されてしまったのです。さながら、直営ディーラーの試乗車、ないしはサンプルカーを、中古車価格で購入するようなイメージでしょうか。「年式・飛行距離の割に安くてお買い得ラー」という判断があったのでしょう。
ところが、ここで問題が。こちらの記事でも書いた通り、ロールスロイス(RR)エンジンを採用する!というのがキャセイパシフィック航空のこだわりです。B777は-300ER/LRを除いてP&W/GE/RRの三種類のエンジンから選択できるようになっていますから、既存の4機のフリートも当然RRエンジンを搭載しています。
しかし、N7771号は三種類のエンジンのうち最初に仕上がってきたP&W PW4090エンジンを搭載。このままではキャセイでは使いづらい仕様です。と、いうことで2基のエンジンをP&WからRR Trent 884に積み替えています。
旅客機のエンジンを当初と異なるメーカーのものに換装する、というのは非常にレアな事例だと思っています。エンジンそのものを交換するのはもちろんのこと、主翼と接続するためのパイロンや留め金具等々、総取り替えが必要なはずですから、結構な大工事になりましょう。
細かい経緯は推測に過ぎませんが、キャセイパシフィック航空のRRエンジンへのこだわりと、お値打ち機材ゲットに対するパッションが強く感じられます。バーゲンハンターの主婦みたいですね。他より10円安い卵を買うために、2駅先までママチャリ走らせまーす、みたいな。
無事にエンジンを換装した後は、既存の4機のキャセイパシフィック航空B777-200フリートに合流。とはいうものの、B777-200は同社のリージョナルフリートのなかでも、小回りの利くA330と最大キャパシティを誇るB777-300の間に挟まれ、どうも影が薄い存在です。B777-200固定の運用というのは殆ど存在せず、運用や席の埋まり具合に応じて、アドホック的にアジア内を飛び回っています。
ある種、狙って乗るのが難しい機材であるともいえましょう。私は残念ながら(?)B-HNL号に当たったことは一度もありません。
-他の各モデル初号機はどんな扱い?
ところで、B777以外の「初号機」はどんな運命をたどっているのでしょうか。
①ずっとメーカー所属テスト機のまま変わらないパターン
(A340, B757-200, B767-200, B787等)
デモ塗装のままテストベッド用にメーカーで保管されるパターンです。スクラップになるまで、一般の航空会社に引き渡されることはありません。このB757に至っては、ボーイング社の防衛部門のテスト機に抜擢された結果、とんでもない外観に変化してしまっています。
中部国際空港セントレアに寄贈され、今後展示が予定されているB787-8もこのグループに入るといえるでしょう。
②テスト飛行終了後、即エアラインに引き渡されるパターン
(B747-400, B767-300等)
テスト期間が終了した直後に、すぐに航空会社に引き渡されるパターンです。例えばB747-400の初号機は、ノースウエスト航空に引き渡し後、2015年9月まで太平洋路線で運用。ラストフライトを終え、デルタ航空博物館入りが決定しています。
B767-300の初号機も、キャリアの全てをJALで過ごし、引退後はそのままスクラップとなったようです。
③テスト飛行終了後、改造されてエアラインに引き渡されるパターン
(B777-200,A330-300)
なんと、どちらもキャセイパシフィック航空が引き取り手です笑 (A330は後にドラゴン航空に移籍しています)
時系列的にはA330の方が先なので、ここでのエンジン換装成功体験が、B-HNL号の買い付けに繋がったのだと推測されます。うーん、やっぱり香港人は抜け目ないですね!
まとめ
過酷なテスト→ニート生活→エンジン換装→キャセイで酷使
という波瀾万丈なキャリアをたどるB-HNL号。初飛行から21年を経ていることを考えると、A350の導入とともに引退が予想されます。たまに壊れたりもしているようなので、搭乗する機会があったら労ってあげましょう!